【読書好きなら必読!!】『夜のサーカス』があなたをファンタジーの虜にする理由※ネタバレ注意!!
夜のサーカス

著者 エリン・モーゲンスターン
訳者 宇佐川 晶子
出版社 早川書房
総ページ数
単行本 557ページ
{ファンタジー×ラブストーリー}
- 海外小説初心者へのおすすめ度:
- 詩的要素:
- 幻想的な表現の多さ:
あなたを非日常の世界へ誘う、とびきりの一冊をご紹介します。
それが、こちらのファンタジー小説。ただの冒険譚ではありません。緻密に描かれた世界の中で展開されるのは、あまりにも切ないラブストーリー。
二つの要素が絡み合い、読者の心を強く揺さぶる傑作です。
大人も学生ものめり込んでしまう物語の世界へ入り込みましょう。
あらすじ
夢のサーカスへようこそ。
夜だけ開く黒と白のテントのなか、待っているのは言葉を失ってしまうようなショウの数々。氷でできた庭、雲の迷路、優雅なアクロバット、ただようキャラメルとシナモンの甘いにおい…
しかし、サーカスではひそかに熾烈な闘いがくりひろげられていた。
若き魔術師シーリアとマルコ。
幼いころから競い合いを運命づけられてきた二人は、相手に対抗するため次々とサーカスに手を加え、魅惑的な出し物を創りだしていく。
しかし、二人は、このゲームの過酷さをまだ知らなかったー
魔法のサーカスは世界中を旅する。風変わりなオーナー、とらえどころのない軽業師、謎めいた占い師、そしてサーカスで生まれた赤毛の双子….
様々な人々の運命を巻き込んで、ゲームは進む。
世界で絶賛された幻惑とたくらみに満ちたデビュー作。
黒と白のサーカスに魅せられて
サーカスといえば、赤と白のストライプの大きなテントに、たくさんの出し物が賑やかに繰り広げられるイメージがありますよね。
でも、今回ご紹介する小説は、そのイメージをガラッと変えてしまう、黒と白に統一されたサーカスのお話です。
大小さまざまなテントがまるで迷路のように立ち並び、キャラメルとシナモンの甘い香りが漂う。
トリックが全くわからない魅力的で不思議な出し物の数々に、ページをめくる手が止まらなくなります。
読んでいると、その美しい情景が目の前に広がっているかのように感じられて、心が躍ります。こんなにも想像力をかきたてられる作品は、今まで出会ったことがありませんでした。
分厚い本が苦手な私でも夢中に
初めてこの作品に出会ったのは高校生の頃でした。たまたま兄が買ってきた『夜のサーカス』という小説で、表紙に惹かれて借りたのを覚えています。
当時、200ページを超えるような分厚い本はなかなか読みきることができず、正直苦手でした。この作品はなんと557ページもあるので、「読みきれるかな?」と不安に思っていました。
また、ファンタジー小説も初めてだったので、「想像力が足りなくて楽しめないかも」とも思っていました。でも、当時は部活もしていなかったので、時間だけはたっぷりありました。
ゆっくりと、自分のペースで読み進めていきました。
ページをめくる手が止まらない!
序盤に、私のお気に入りの部分があるので引用します。
引用部分の主要人物
- シーリア
- マルコ
- チャンドレッシュ
- マダム・パドヴァ
引用
娘はパフスリーブの上着を脱ぎ、無造作に足元に落とす。
緑のドレスは袖もなければ肩紐なく、銀のロケットらしき長い銀鎖を首にかけているだけで、肩もむき出しだった。
舞台の上で辛抱強く、じっと待っているシーリアを見ていたのは、マルコだけだった。
ごくゆっくりと、彼女のドレスが変わりはじめた。
ネックラインから、まるでインクのしみが広がっていくように、緑のシルクが暗い真夜中を思わせる黒に変じていく。
マルコがはっと息をのんだ。
それを耳にして、舞台のほうをみたチャンドレッシュとマダム・パドヴァは、ドレス全体に広がっていた黒が、スカートの裾部分で純白に変わる瞬間を目の当たりにした。
ドレスが緑だった証拠はもうどこにもなかった。
心に残る詩的な表現
少し引用しすぎたかもしれませんが、それほどこの部分が記憶に残り、私にはとても素敵に感じられました。
この場面は、主人公のシーリアとマルコが初めて出会い、マルコがシーリアの力を目の当たりにする、とても印象的なシーンです。
全体を通して、詩集を読んでいるような美しい文章が散りばめられていて、その雰囲気に引き込まれてしまいます。
絡み合う切ないラブストーリー
この作品の大きな魅力の一つは、登場人物たちが織りなす切ないラブストーリーです。
ゲームの対戦相手だとわかっていながらも、互いに惹かれあってしまうもどかしさ。
そして、愛してしまったと気づいた頃に、ゲームの本当の目的を知ってしまう苦しみ。決められた運命を変えるために悩み、もがきながら物語は進んでいきます。
個性豊かなキャラクターたち
この物語を彩るのは、魅力あふれる個性的なキャラクターたちです。
サーカスの団員たちも、ただの脇役ではなく、それぞれの物語を持っています。
特に私が好きなのは、ツキコとイゾベルです。
ツキコは日本人で、海外の小説に日本人が登場しているのがとても新鮮でした。
作中での彼女の存在感が印象に残り、読了後も忘れられませんでした。
そしてイゾベルは、行動力と度胸のある素敵な女性です。自分の行動にまっすぐ向き合う彼女の姿に、心を惹かれてしまいました。
ツキコもイゾベルも、ゲームに介入し振り回されながらも、シーリアとマルコの行く末を見守っていたんです。
感想
読み終えるのがもったいない一冊!
これまで感想ばかりを書いてきましたが、とにかく声を大にして伝えたいのは、この作品はぜひ手に取ってほしいということです!
私はこの本を、周囲の人に「絶対に読んで!」と強く勧めているほどです。
物語としても、そして詩のように美しい文章としても楽しめる、特別な一冊になっています。
可愛らしい表紙も魅力的で、思わずコレクションしたくなるほどです。
海外小説の言い回しが苦手な方でも、翻訳がとても読みやすいので、海外小説デビューにもぴったりですよ。
五感で楽しむ魔法の世界
この作品を読むと、まるで視覚だけでなく、嗅覚や触覚も刺激されるような不思議な感覚になります。
キャラメルとシナモンの甘い香り、テントの生地に触れる感触…。
そんな世界に引き込まれて、一気に読み終えてしまう人も多いのではないでしょうか。
夢と幻想が詰まったこのサーカスは、読者にとってかけがえのない大切な場所になります。だからこそ、この作品は世界30カ国で刊行されるほど愛されているのでしょう。
辛く苦しい試練を乗り越え、自分たちが納得できる未来へ向かって必死にもがく主人公たち。ゲームが終わる頃には、私たちの心も、あふれんばかりの感情で満たされます。
楽しいファンタジーの世界から現実に戻ってきた時には、なんとも言えない達成感と、心に深く残る感動を味わうことができますよ。