【全作品読破】スチュアート・タートン3部作の魅力と、私が読書から得た大切なもの

「最近、読書から遠ざかっているな…。」「読書って、ただ疲れるだけじゃないの?」そう感じているあなたにこそ、この記事を読んでほしいです。
今回は、私が心の底から夢中になったスチュアート・タートンさんの3作品についてお話しします。
難解なミステリーやファンタジー要素がぎっしり詰まった彼の世界は、ただ物語を楽しむだけでなく、私にたくさんの気づきを与えてくれました。
この記事が、あなたの次の読書への一歩となることを願っています。
『イヴリン嬢は七回殺される』

著作 スチュアート・タートン
訳者 三角和代
出版社 文藝春秋
総ページ数
単行本 592ページ
{SF×ループ×ミステリー}
読書に慣れた方のおすすめ度:
読書に慣れてない方のおすすめ度:
本作の面白さ:
以前、この作品の美しい緑色の装丁について、「見ているだけでも心惹かれる」とご紹介しました。その愛らしさと凝ったデザインは、読む前から物語の世界へ私たちを誘ってくれるようでした。
今回は、その装丁の向こう側にある、心を揺さぶるストーリーに触れていきたいと思います。
あらすじ
森の中に建つ屋敷〈ブラックヒース館〉。そこにはハードカースル家に招かれた多くの客が滞在し、夜に行われる仮面舞踏会まで社交に興じていた。
そんな館に、わたしはすべての記憶を失ってたどりついた。自分が誰なのか、なぜここにいるのかもわからなかった。
だが、何者かによる脅しにショックを受け、意識を失ったわたしは、めざめると時間が同じ日の朝に巻き戻っており、自分の意識が別の人間に宿っていることに気づいた。
とまどうわたしに、禍々しい仮面をかぶった人物がささやく一今夜、令嬢イヴリンが殺される。その謎を解かないかぎり、おまえはこの日を延々とくりかえすことになる。
タイムループから逃れるには真犯人を見つけるしかないと・・・・・。
悪評ふんぷんの銀行家、麻薬密売人。一族と縁の深い医師、卑劣な女たらしとその母親、怪しい動きをするメイド、そして十六年前に起きた殺人事件・・・・・。
不穏な空気の漂う屋敷を泳ぎまわり、客や使用人の人格を転々としながら、わたしは謎を追う。だが、人格転移をくりかえしながら真犯人を追う人物が、わたしのほかにもいるという….。
英国の正統派ミステリの舞台に、タイムループと人格転移というSF 要素を組み込んで、強烈な謎とサスペンスで読者を離さぬ超絶SFミステリ。イギリスの本読みたちを唸らせて、フィナンシャルタイムズ選ベスト・ミステリ、コスタ賞最優秀新人賞受賞。
多数のミステリ賞、文学賞の最終候補となった衝撃のデビュー作
表紙に惹かれて購入した、SFタイムループ小説
前回もご紹介しましたが、今回初めて読んでくださる方のために、あらすじからお話ししますね。
この作品はタイムループもの。SFやミステリー要素もたっぷり詰まっていると知って、「面白そうだけど、難しそうだな……」と少し心配しつつも、表紙に一目惚れして購入しました。やっぱり、心惹かれるものには逆らえませんよね。
じっくり時間をかけて読む「大作」
上下に文章が分かれていて、文字がぎっしり詰まったボリューミーな作品です。ページをめくるたびに、まるで海外映画を観ているような気分になります。
映像化されたら絶対に観に行きたい!
読書が好きで読み慣れている方、海外小説やミステリーがお好きな方には、きっと楽しんでもらえるはずです。
ただ、読書を始めたばかりの方や、文字数の多さに圧倒されてしまう方には、少しハードルが高いかもしれません。
正直に言うと、1ページ読むのにかなり時間がかかり、読了までなんと2ヶ月もかかりました(笑)。
もしそれでも「読んでみたい!」と思ってくださったら、私のようにじっくり、時間をかけて読み進めるのがおすすめです。
衝撃の「人格転移」シーン
今回は、私が最初に驚いたお気に入りのシーンを引用しました。人格転移とはこうゆう事かと何度も読み返した場面です。
引用
こんなことはあり得ない。「突っ立っている場合じゃないんだ!」
彼が叫んでわたしの肩をつかんで揺さぶり、その手の冷たさが寝間着もとおして伝わってくる。
返事を待とうともせず、わたしを押しのけてホールに入って誰か助けてくれる人を探す。
わたしは自分が目にしているものを理解しようとする。
これはわたしだ。
これは昨日のわたしだ。
わたしは執事として目覚めたのだ
ループする時間と人格転移
今回の引用は短めですが、この一文にたどり着くまでに、たくさんの出来事があります。
そして、ついに彼は気づきます。この日この時が繰り返されている、つまり時間がループしていることに。
さらに驚くのは、自分という意識が、前回とは違う人物の体に入り込んでいること。彼は、昨日の自分(他の人物)と遭遇し、同じ行動をとり、同じことを言うのを見て、自分が人格転移していることを悟ります。
何が起こるか知っている彼は、ただ観察するしかない。しかし、観察しているだけでは、見えない誰かに殺されてしまいます。
謎を解かなければ脱出できない
手がかりを集め、もう一人の人格転移者は誰なのか、真犯人は誰なのか、その謎を解かなければこのタイムリープから抜け出せません。
ここが、この作品の面白いところです! 読者も一緒に探偵になった気分で、手がかりを集めながら違和感を探して読み進められます。
『名探偵と海の悪魔』

著作 スチュアート・タートン
訳者 三角和代
出版社 文藝春秋
総ページ数
単行本 440ページ
{奇怪×ミステリー}
読書慣れした方におすすめ度:
ミステリ度:
面白さ度:
スチュアート・タートンの第2作目は、船を舞台にしたミステリー。呪いのような出来事が次々と起こり、その謎に迫っていきます。
面白いのは、主人公の相棒であるはずの名探偵が、なぜか牢屋の中にいること! そのせいで、元兵士の主人公が事件の調査を任されることになるんです。
「え、名探偵が牢屋って、どういうこと!?」
そう思いますよね? この衝撃的な設定こそが、物語の最大の魅力です。
あらすじ
時は十七世紀、
大海原を進む帆船で起こる怪事件。
囚われの名探偵に代わり、屈強な助手と貴婦人が謎を追う。
すべては悪魔の呪いか、あるいは…?
「この船は呪われている、乗客は破滅を迎えるだろう」
バタヴィアからオランダへ向かう帆船ザーンダム号に乗船しようとしていた名探偵サミー・ピップスと助手のアレントらに、包帯で顔を覆った怪人がそう宣言した。
そして直後、男は炎に包まれて死を遂げた。しかし名探偵は罪人として護送される途上にあり、この怪事件を前になすすべもなかった。
オランダへと帰国するバタヴィア総督一家らを乗せ、ザーンダム号が出航せんとしたとき、新たな凶兆が起こる。
風を受けてひるがえった帆に、悪魔〈トム翁〉の印が黒々と浮かび上がったのだ!
やがて死んだはずの包帯男が船内に跳梁し、存在しないはずの船の灯りが夜の海に出現、厳重に保管されていた極秘の積荷〈愚物〉が忽然と消失する。
わきおこる謎また謎。たが名探偵は牢にいる。元兵土の助手アレントは、頭脳明断な総夫人サラとともに捜査を開始するも、鍵のかかった密室で殺人が!
驚愕のSFミステリ「イヴリン嬢は七回殺される」の鬼才の第二作。海洋冒険譚と怪奇小説を組み込んだ全方位型エンタテインメント本格ミステリ!
罪人となった名探偵
罪人となった名探偵が、船に乗せられる。この衝撃的な始まりに、まず心を奪われます。
「名探偵なのに、なぜ罪人に?」
そんな疑問を抱えながら読み進めると、彼は船の中の牢屋に閉じ込められてしまいます。
名探偵の相棒、アレントの苦悩
前作と同じく、上下の文章に分かれたボリュームのある作品。主人公は元兵士で、名探偵の相棒であるアレントです。
彼は「自分には事件は解決できない」と、名探偵を牢屋から出してもらおうと交渉を試みますが、うまくいきません。今回引用した文章は、その直後のもの。
困惑と焦りを抱えるアレントが、ある言葉をきっかけに、ついに重い腰を上げ、真相を追い始めます。
引用
「いや。君は何よりこの船を救わなければ。まずは船長と、次に倉庫番と話せ。誰が、なぜ、この船を脅かそうとしているのか探りだすんだ。」「それはあんたの仕事だ」アレントは言い張った。「おれはあんたを救う。そうしたら、あんたがみんなを救え。いつもそうだっただろう。おれは総督と話す。きっとわかってくれる」
「時間がないんだ」ドレヒトに肩を掴まれて牢獄へ導かれながら、サミーは言った。
「おれにはあんたの仕事はできない」アレントは言った。
先ほどのサミーに負けないくらいの焦りを感じていた。
「だったら、それができる者を探せ」サミーが答えた。
「僕にはもうきみを手伝えない」
一瞬ののち、ドレヒトがドアを閉めてかんぬきをおろし、サミーを完全なる暗闇に投げ込んだ。
孤軍奮闘するアレント
名探偵サミーの事件解決をすぐそばで見てきたアレントにとって、一人で事件に立ち向かうのは、心細くて仕方ないことでした。
普段は用心棒を務めていますが、完全に一人で解決に挑むのは初めてです。彼は、過去に自分が有罪だと決めつけた人物をサミーが無罪にしてしまったトラウマから、自信を失っていました。
「そんな自分に、別の人を探して捜査しろなんて、一体何を考えているんだ…?」
アレントの困惑がひしひしと伝わってきます。
意外な協力者、サラの登場
そんな中、総督の妻であるサラも、夫に内緒で聞き込みをしていました。
常に思考や行動を制限されてきた彼女が、夫に逆らうような行動を取るその勇気には驚かされます。総督にバレたときの危険を理解しながらも動ける彼女の姿は、とても勇敢です。
実は、サラは名探偵の事件記録の熱心な読者であり、ファンでした。その好奇心から、アレントの捜査に協力することになります。
総督にバレないように行動する彼女の大胆で力強い姿に、読みながら何度も胸を打たれました。
『世界の終わりの最後の殺人』

著作 スチュアート・タートン
訳者 三角和代
出版社 文藝春秋
総ページ数
単行本 424ページ
{人類滅亡×殺人の謎ミステリー}
読書したい方におすすめ度:
謎解き好きの方におすすめ度:
面白さ:
スチュアート・タートンの待望の新作は、過去2作とはまた大きく設定を変えていて、とてもワクワクしました。
帯に書かれた内容から「これは絶対に面白い!」と確信し、迷わず購入。
1作目、2作目と同様、今回の表紙も物語の内容に深く沿っていて、読み終えた後にはその緻密さに思わず唸ってしまいました。
あらすじ
人類絶滅まで46時間。
世界の終わりを阻止したければ、殺人の謎を解け。
突如発生した霧により、世界は滅亡した。
最後に残ったのは「世界の終わりの島」、そこには百名を超える住民と、彼らを率いる三人の科学者が平穏に暮らしていた。沖には霧の侵入を防ぐバリアが布かれ、住民たちはインプラントされた装置により〈エービイ〉と名づけられたAIに管理されていた。
だが、平穏は破れた。科学者のひとり、ニエマが殺害されたのだ。
しかも住民たちは事件当夜の記憶を抹消されており、ニエマの死で起動したシステムによってバリアが解除されていた。
霧の到達まで四十六時間。バリア再起動の条件は殺人者を見つけることー。
果たして「世界の終わりの島」に隠された秘密とは?
そして真犯人は誰なのか?
現代本格ミステリ・リヴァイヴァルを牽引する鬼才タートン、『イヴリン嬢は七回殺される」「名探偵と海の悪魔」に続く第三作目は、特殊設定SF 犯人探しミステリだ!
読みやすさと変わらない面白さ
今回の作品は、1作目や2作目と比べて文章量が少なく、比較的読みやすく感じました。にもかかわらず、面白さは変わらず、最後に「そうくるか!」と思わされる展開には、読み返したくなります。
読み解く楽しさと物語への期待
「これは伏線だったのか」と読み返したときに初めて気づくのは、まだミステリーの読み方が足りない証拠かもしれません。
SF要素も盛り込まれていて、時間をかけてでも読み進めたくなる作品です。今回も物語の序盤から心を掴まれ、引用させていただきました。
ここから物語が始まる、と思うと胸が高鳴りますね。
引用
ヴァイオリンがミスひとつなく演奏されないと、ナイフがニエマの胸に刺さるだろう。
悪い人物が長く閉ざされていたドアに足を踏み入れれば、がっしりして傷のある男は全ての記憶を空っぽにされ、ちっとも若くない若い女がみずから死に向かって突き進む。
こうしたことが起きなければ、地上最後の島は霧に覆われ、なにもかもが薄闇のなかで息絶える。
「用心すれば、思いがけない危険は避けられるはず」
ニエマは空を切り裂く稲妻に目を凝らす。
「あなたには用心する時間がありません」
わたしは言う。
「あなたがこの計画を実行したとたん、秘密は明らかになって、むかしの恨みがよみがえり、あなたの愛する人たちはあなたの裏切りがどれほどのものだったか気づくでしょう。こうしたことのどれかひとつが計画を妨げただけで、人類は百七時間で絶滅します」
ニエマの心臓はどくんと揺れ、脈が速まる。
思考がぐらつき傲慢さが手綱を握ってようやくふたたび定まる。
「最大の成果には最大のリスクがついてまわるものでしょう」かたくなに言い、暗闇でぎくしゃくと歩く人影の列を見つめる。
「カウントダウンを始めて、エービイ。四日後には、世界を変えているか、挑戦の末に死ぬかどちらかよ」
共感と苦悩の物語
この物語は、エービイの目線で進んでいきます。
未来を俯瞰し、まるでゲームの攻略のように登場人物たちを理想の結果へ導いていくエービイ。そんな存在って、なんだか面白いですよね。
そして、もう一人、心惹かれたのが探偵役のエイミーです。彼女が事件に立ち向かう姿はもちろん、父親や娘との関係、周りとの違いに悩む姿に、私は深く共感しました。
父親と喧嘩ばかりで上手く話せないもどかしさ、伝えたいのに理解してもらえない悲しさ。読みながら「わかる…」と何度も頷いてしまいました。
周りと自分との間に生まれる疎外感や距離感を感じ、心が苦しくなる場面もありました。
娘を大切に思うがゆえに、危険な道に進ませたくない。その気持ちも痛いほど伝わってきました。
夫と同じ道を選ぶ娘を応援したいのに、怖くて送り出してあげられない。そのせいで娘に嫌がられ、距離を置かれてしまう辛さ。
みんなが当然と思っていることに疑問を感じてしまう自分に嫌気がさしたり、誰も答えをくれない不安を抱えたり。
それでも心を奮い立たせて、自分にしかできないと信じて前に進むエイミーの姿は、本当にカッコよかったです。
憧れと尊敬の念
普段の自分だったら、嫌なことや自信がないときに、あんな風に振る舞えるだろうか、自分を貫けるだろうかと考えると、きっと無理だろうと思います。
周りの人に声をかけることすらためらってしまうかもしれません。
だからこそ、心を奮い立たせて行動できるエイミーのことが、心から大好きになりました。
感想
スチュアート・タートンさんの世界へようこそ
これまでご紹介した3作品は、どれもテイストが異なり、新鮮な気持ちで楽しめます。ミステリー、ファンタジー、SF、海外映画が好きな方、きっと誰もが夢中になれるはずです。
どの作品にも魅力的なキャラクターがたくさん登場するのも、大きな魅力。
あまりネタバレはしたくないのですが、これでもかなり厳選して書いています。
物語のつながりは薄いので、どの作品から読んでも楽しめますが、もし可能なら1作目から読んでほしいですね。
特に2作目の「名探偵の事件記録」が3作目に少しだけ登場したときは、思わずテンションが上がってしまいました。
読書は心の栄養剤
文字だらけで最初は圧倒されても、読み始めればすぐにその世界に入り込めます。私は、スチュアート・タートンさんが作り上げたあたらしい世界に没頭することで、日々のストレスを発散しています。
仕事で疲れた頭には、勉強よりも読書が一番。
たった2、3行読むだけで、タイムループしたり、名探偵を助けようとしたり、自分と向き合って真犯人を探したり、物語の主人公と一緒に旅している気分になれるんです。
「勉強以外の読書は必要ない」という意見もありますが、私はそうは思いません。
ファンタジーやミステリーであっても、いろんな作者の方々は科学的要素や哲学、植物学など、徹底的に調べ上げて作品を創り上げています。
読書は、私たちがこれまで知らなかった分野に触れ、新しい知識や好奇心を持つきっかけを与えてくれます。
これは何よりも価値があることだと感じます。
食わず嫌いをせず、心惹かれる作品に出会ったら、ぜひ読んでみてください。
読書は、私たちの人生に新しい風を吹き込んでくれます。
思考も心も風通し良く、豊かに過ごしたいものですね。
