吉田篤弘さんの短編ストーリー3作品
もともと吉田篤弘さんの作品は読んだことがなく、全く知らない状態で書店に置かれている『月とコーヒー』と出会いました。
黒い表紙は、夜を連想させ、タイトルの「月」と絵の「コーヒー」が手に取ってみたいと引き寄せられたんです。
単行本より小さく四角いような見た目。
白色のシンプルな帯に『とっておきの24篇』と書かれているのをみて、そんなに収録されているの⁉︎と驚いてレジに持っていってました。
そんな短篇小説、3作品をご紹介します。
『月とコーヒー』

著者 吉田篤弘 出版社 徳間書店
総ページ数 333ページ
あらすじ
喫茶店<ゴーゴリ>の甘くないケーキ。
世界の果てのコインランドリーに通うトカゲ男。
映写技師にサンドイッチを届ける夜の配達人。
トランプから抜け出してきたジョーカー。
赤い林檎に囲まれて青いインクをつくる青年。
三人の年老いた泥棒、空から落ちてきた天使、終わりの風景が見える眼鏡ー。
忘れられたものと、世の中の隅の方にいる人たちのお話しです。
{感想}
月とコーヒーの中でも私が好きな話は、「3人の年老いた泥棒」です。
3人の年老いた泥棒は、ずっと泥棒だったのです。
ある日、盗む物がなくなった3人は泥棒であるがために何かを盗まなくてはいけないと美術館に行きます。絵画に描かれた星だけを盗み始めるのですが、泥棒とは「真に価値ある物」しか盗まないのです。
この物語を読んで綺麗な星を見に外に顔を出しました。
あいにく曇りで星は見えませんでしたが、夜、外に出ている日は星を探すようになりました。私にとっても「真に価値ある物」だったのかもしれません。
『中庭のオレンジ』

著者 吉田篤弘 出版社 中央公論新社 総ページ数 317ページ
あらすじ
オオカミの先生の<ヴァンパイア>退治
五番目のホリーに託されたスープの秘密
ギター弾きの少女の恋
5391番目の迷える羊
予言犬ジェラルドと花を運ぶ舟
遠い場所で響き合う夜の合奏
天使が見つけた常夜灯のぬくもり
中庭に実る色あざやかな物語の果実。
{感想}
『中庭のオレンジ』の中では「カウント・シープ#5391」という作品が好きです。
眠りにつくとき、羊を数えるなんて昔ではよく言いましたよね。
sleepが繰り返すうちsheepに聞こえ羊の事だと勘違いしたなんて話を聞いたことがあります。諸説あるんでしょうけど。
この作品では、羊の仕事として出てくるのですが5391番なんでまず数えられませんよね。人に数えられないと仕事として出ていくことができないので、一桁台の羊は神のような存在なのだそう。
5391番の羊は自身の幸せについて考えている中で7番の羊に出逢います。話をしていると幸せがなんとなくわかったような気持ちになったみたいです。
人にとっての幸せも個々で違うように、羊たちの幸せもきっと羊の数だけあるんでしょう。自分だけの幸せに気づけたらそれはもう幸せなことですね。
『月とコーヒー デミタス』

著者 吉田篤弘 出版社 徳間書店
総ページ数 333ページ
あらすじ
火星が最も地球に近づいた夜の小さな奇跡。
<まっくら都市)でくこころ>を探すモグラの冒険。
駄目なロボットによる素晴らしいオーケストラ。
<トカゲ式ゴム印>と世界の果ての地球儀屋。
夜を青く塗り替える、〈貴婦人〉という名の石炭。
空を飛べなかった男と、ほろ苦いビター・チョコレート。
〈白紙屋〉の白い手袋と三人の年老いた泥棒。
せかいの片隅に生きるささやかで優しい誰かと誰かのお話です。
{感想}
月とコーヒーに出てきた3人の年老いた泥棒がこの作品にも登場してくれました。
前作でも好きな物語だっただけに今回もタイトルを見た時に、前と同じ人たちの話かな?と読むのが楽しみでした。
3人の年老いた泥棒は顔の形や体の形といったものをなくしつつ、久しぶりに盗みたくなった「選び抜かれた白紙」を盗みに店内へ。
「選び抜かれた白紙」が1番の芸術だと話す3人でしたが、店主が残した最初で最後の「痕跡」を見つけます。
なぜなのか、なんとなくこの物語が好きなんですよね。
まだ、誰も価値を知らない物を盗みだし、一通り盗んだあと、盗む物がなくなると気づかれないうちに返すことにするところとか好きです。
{3作品を読んで}
月とコーヒーの物語の続きがデミタスに収録されています。
全てが続きなわけではありませんが、あそこで終わりじゃなかったんだと物語も続いていっていたんだなと感じながら読んでいました。
中庭のオレンジには月とコーヒーに登場した人たちは出てきませんが、こちらもまた少しずつ楽しめる作品が21篇も収録されています。
まだ続きが読みたいと思う作品もありますが、この3作品の素敵なところは、少しずつ楽しめる物語。はじめから読むことに囚われずに、とりあえず開いたところから物語を楽しめる。
少しずつ楽しむときに手に取りたい素敵な作品でした。

